北海道在住、2020年に北海道新聞短歌賞佳作も受賞されている、千葉優作さんの第一歌集『あるはなく』。
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タイトルは
あるはなくなきは数添ふ世の中にあはれいづれの日まで嘆かむ
という、新古今和歌集・小野小町からの引用。
かつていた人はいなくなり、なくなる人も増える世の中で、いつの日まで私は嘆くのか、という無常を詠んだ歌です。
この歌集でも、命や、失われるものへの悼みや無常観が、文語で、かつ現在に届く形で歌われています。
みづたまりだつた窪みのあらはれて路上に消えてあるみづたまり
たんぽぽのやうに暮らしちゃだめですか三万人が自死する国で
消えてある、死の中で生きる、という「ある」と「なく」という二面の等価性も特徴的です。
ガガーリン以後に生まれてこの星の青さを信じゐし幼き日
ハンガーは何も言はずに吊るされてかくも静かな労働がある
人類初の宇宙飛行をしたガガーリン、そこにあるだけという労働など、二極間を揺らぐ視点は、時間や労働の中にも向けられています。
カーラジオから流れくる Time to say goodbye アクセルを踏め
ひとはみな痛みに弱い鮭だから泣きながら思ひ出をさかのぼる
ただの無常の傍観者ではなく、痛みを引き受けながらも逆らう、秘めたる熱さ。
あの夏のきみにまつはる思ひ出のすべてが夏の季語だったこと
あやまちのやうに夢から覚めてをりわがたましひは鳥にあづけて
また、喪失感の中にも溢れるロマンチシズムや、言葉や情景の美しさも魅力。北海道独特のワードも散りばめられています!
是非、ご一読下さい。(よ)