【書籍紹介】三田三郎『鬼と踊る』

三田三郎さん、『鬼と踊る』。

ぼろぼろの単語帳めくる少年よ頑張れ俺はもう頑張れない

公園のカップルを睨み付けたあと帰る夜道は暗すぎないか

目覚めれば現実起き上がれば現実ちょっとお茶でも飲めば現実

何ともレトロな印象で、昭和の風情すら感じる魅力的な装丁。笑いを誘うような歌も多くあります。頑張れなくなった「俺」の代わりに、勉強をする少年を励ます姿。カップルに嫉妬と悪意を向けてしまった後の自己嫌悪。
タイトルも「肝臓のブルース」「二日酔いのエレジー」「せめてあくびを」など、コミカルです。

ただの面白い話で終わらせられないのは、これがフィクションではなくて、生きている本人の生々しさがあって、例え苦労や悲しみがあっても、もう1人の自分が、笑い話にしようとしている姿が見えるからだと思います。

爪を切る気力があればよしとする自律神経没後八年

コンビニで靴下を買う大人にはなりたくなかった!(なりたくなかった!)

どんなに心の叫びがあっても、不満があっても、そのまま暗い形で吐露するのではなくて、一歩引いてコメディにしてしまう、強さや優しさも感じました。

瞳孔が開いたコメンテーターの言うことだけは正座して聞く

死神から誘いが来ても今日はまだ「行けたら行く」と答えるだろう

帰ったら石鹸で手を洗いなさいウイスキーで脳を洗いなさい

瞳孔の開いた人の言葉に強く共感したり、はぐらかしながらも死神の声が聞こえていたり…実は、すごく切迫しているようにも見える。
「これまで私が生きてきたなかで出会った「鬼」について怨念を込めながら赤裸々に綴ってみたのですが(中略)そもそも、私もまたこの世に蔓延る「鬼」の一匹に過ぎないのですから、被害者面で他の「鬼」の悪行を暴き立てて得意になるのもおかしな話です。」
と、あとがきにあって、「三田さん、優しすぎるよ…!!」と、ややいたたまれない気持ちにもなるのですが、それが、三田さんの納得のいく在り方で、「鬼」との向き合い方なのかも知れない。と思います。
「あ”ー!」という気持ちにもなるし「明日もいけるかも!」という気持ちにもなる歌集。
山田航さん監修、解説も興味深いです!
是非、ご一読下さい。(よ)