とても近くて、深くて、繊細で、荒々しくて−平岡直子さん『みじかい髪も長い髪も炎』

平岡直子さん、待望の第一歌集『みじかい髪も長い髪も炎』

銀で箔押しされた、縄のデザインが、上品さもありながら少しロマンチックであり、神秘的な印象です。

すごい雨とすごい風だよ 魂は口にくわえてきみに追いつく

手をつなげば一羽の鳥になることも知らずに冬の散歩だなんて

言葉ひとつひとつは知っている言葉、特別ではないはずなのに、驚くべき飛躍で、どこか違う世界に迷い込んだよう、それでいて、心の1番奥深く、繊細な部分を鷲づかみにしてしまうようなドキドキ、刺激でクラクラします。

わたしたちの避難訓練は動物園のなかで手ぶらで待ち合わせること

三越のライオン見つけられなくて悲しいだった 悲しいだった

動物園のなかで手ぶら、なんて、すごく気の抜けた状態な気がするけれど、それは命の危機に隣接する事であったりする。三越のライオンが見つからない事が、言葉が壊れて反響するほど、心を砕く事だったりする。生きることは、すごく恐ろしくて、反面、すごく素晴らしい。そして簡単ではないけれど、美しい。

どの朝も夜もこうして風を受けあなたの髪が伸びますように

ねえ夜中のガードレールとトラックのように揺れよういちどだけ明るく

生きる中の、刹那よりも短い一瞬を見逃さないようにな鋭い感覚の中で、永劫に続く何かに触れられる気がして。すごく近くで会話をしているのに、どこまでも遠くが見える気がします。

何度も反芻したくなる、心に携えておきたい歌が詰まった歌集です。