書籍紹介ー劉暁波・霞 詩集「牢屋の鼠」「毒薬」「独り大海原に向かって」

劉暁波氏を初めて知ったのは、新聞でした。概ねは人権活動家が国家に捕らえられている。というニュースで、詩人、というのはこの本を通じて知りました。

こんなページを開いてくれる方は、詩歌に関心のある方が多いと思います。そんな方は、詩人は世界について真剣に考え、向き合い、戦っている事も知っているかと思います。これらの本に収められている散文や詩は、彼の活動や言動が、人々の為に活動家として戦った事を強く感じさせます。寧ろ、命を賭して人間の為に戦う事と、詩をつくる事が同じ事だったんじゃないか。とすら思います。

一匹の小さな鼠が鉄格子の窓を這い

窓縁の上を行ったり来たりする

剥げ落ちた壁が彼を見つめる

血を吸って満腹になった蚊が彼を見つめる

空の月にまで魅きつけられる

銀色の影が跳ぶ様は

見たことがないくらい美しい

今宵の鼠は紳士のようだ

食べず飲まず牙を研いだりもしない

キラキラ光る目をして

月光の下を散歩する

ーーーーーーー「牢屋の鼠ー霞へ」

情景としては、冷たく厳しい、静謐と悲しみがあります。でも、絶望や後ろ向きの感じは殆どありません。暗闇の中で美しく駆けるネズミの様に、必ず一閃の希望が描かれています。

また、妻の霞さん、または、荘子、カフカ、ウィトゲンシュタイン、かつての偉人へ向けた詩のシリーズも特徴的です。

冷えびえと空にかかる月のように

それは僕の頭上高くかかっている

きらきらと輝きながら高慢に見下ろし

僕を窒息させようとする

背景に深々と広がった

墓から飛び出してくる幽霊のようだ

君に神聖と純潔を捧げよう

ただ一度夢の中で親密に交わるだけでいい

肌と肌の燃焼など求めないが

視線だけを冷たく染めながら

火焔が蒼白の中に消え去るのを見つめている

空の嘆き悲しむ姿が広漠すぎて

僕の魂の目では見破れない

僕に一滴の雨水をくれ

地面の泥を洗い流すから

僕に一筋の光をくれ

閃きの問いがみつかるだろう

君が一つの言葉を発すると

この扉が開き

夜を家に招き入れる

ーーーーー「牢屋の鼠」妻へ

大きな闇の中にいながらも、世界を、歴史を知り、確実に誰かと繋がろうとしている。詩を書くことで、世界を肯定しようとしている事を強く感じました。

また、大義名分や正義の為、というより、ただ目の前の大切な人の為に戦った人だ。という事も感じます。

元の本は、霞さんとの2人の詩集だそうです。霞さんの「毒薬」とも読み比べると同じ視点を持っていながらも、暁波さんからの強く激しい愛と、そのアンサー。壮大なラブレターとも読めます。

世の中には様々なニュース、政治問題などがありますが、どこにも根本には熱く血の通った人間がいる。という事を思い返させてくれました。

書籍紹介ー「死ぬほど好きだから死なねーよ」 石井僚一さん

北海道江別市出身、北大短歌会在籍中に「父親のような雨に打たれて」で第57回短歌研究新人賞を受賞した、石井僚一さんの第一歌集です。

装丁からして衝撃的!中身はもっと刺激的です。

すごく乱暴な言葉が多い。むしろ、一般的にみて綺麗な言葉の方が少ないかも知れない。けれど、間違いなく剥き出しの感情と、どうにも整理がつかない溢れだす葛藤と愛情が生々しく満ちていて、すごくパンクでリアル。そんな生き様は美しいようにも思います。

遺影にて初めて父と目があったような気がする ここで初めて

これから自殺をするけれど掌に木漏れ日がきらきらしていてちょっとためらう

言葉なく家族とカレーを食べている この辛さは深刻だと思う

 

・・・タイトルにもある通り、「死」という単語はしばしば出てきます。死ぬほど好き。という例えと、死なない。という実際の生存の話が同列に並べられる。すぐしねしね言う命の軽さは現代的とも言えますし、これから自殺、ちょっとためらう、など、コンビニに行くようなテンションで、すぐ隣に死がある。もはや膝に抱えて生きている。という感じすらあって、軽くてふざけているようでいて、自身の生命を軽く軽く扱わざるを得ない、ギリギリの境涯を感じます。

神さま、夢はもう見ませんから、重たくて分厚いまぶたを四つください

たこ焼きのなかには何があるでしょう? たこ、ばか、ぼけなす、あほう、あいしてる。

誤解ではなくて誰もが幸せに暮らしていると確信している

 

・・・生命は、死や絶望と同居している。でも、どうにか希望をみようとしている事もある。神様に頼んでみる。でもそれは夢を見ないという誓いで、開ける事の難しいまぶた。二重に被せるのか、付けたくもないところにも目が開いているのか。普通の人間としている事も諦めているようにも見える。

「たこ焼き器、または便器」という連作もあり、たこ焼きがネガティブなイメージとして出てきます。たこ。というのは、何とも根も葉もない罵声で、ばか、ぼけなす、など、子どもも言わないような言葉の最後に出てくるのはあいしてる。何にも考えたくない、とにかくぐちゃぐちゃしたものが焼かれて固まっている。自暴自棄とも言える自意識の中にも、愛があることを否定できない、あまりにもむき出しな感情の連続です。

 

逆光を背中に受けて微笑んでわずかに揺らぐあなたの輪郭

同時におなじことばを発してドッペルゲンガーだったんだろう ぼくがきみの

・・・自身も、相手も、存在が揺らいでいる。逆光の微笑み。後光だろうか。神々しさすらある誰か。大切な人なのだろうけれど、微笑みかけた時に、その不確定さに気づいてしまう。

ドッペルゲンガーは、みたら死ぬとも言われている。同じ言葉を口にしただけで、自身が相手の幻影だったのかも知れない。と気がついてしまう。しかも、相手を消してしまう存在でもある。だろう。なので、それすら確実じゃない。なんの拠り所もない悲しさがあります。

 

手を振ればお別れだからめっちゃ振る 死ぬほど好きだから死なねえよ

夜になるほど狭くなっていく公園でいつまでふたりでいられるだろう

・・・めちゃくちゃな事ばかり言っているようで、切ない歌が多いです。手を振ればお別れ。当たり前の事。自分はお別れには抗えない。だから、精一杯手を振る。「必死に」など、取り繕う事はしない。ただただ、がむしゃらに、「めっちゃ」で振る。死ぬほど好き。というのは、死とは無縁な安全な世界だからこそ使える、現在的な口語だと思う。しかし、実は自身は死と隣接している事を自覚している。別れたくない。けれど、必死で別れる。修飾語に使えてしまうほど軽い命だけれど、その全てを賭して、相手を愛そうとする、すごく切実な心情を詠っているように思います。

迫りくる夜の様に、不可抗力して寄ってくる闇。その中で、必死に声をあげる、魂の歌集です。

 

書籍紹介ー「サイレントと犀」岡野大嗣さん

安福望さんの絵も素敵な、一冊。
短歌は読まないけれど、素敵なのでこの本は気になっていた…というお客様がいて、とても嬉しくなりました。
これはご紹介したい!

岡野大嗣さんは、『選択と削除』で第57回短歌研究新人賞次席。木下龍也さんとの共著『玄関の覗き穴から差してくる光のように生まれたはずだ』 も話題です。

きれいな言葉を使ってきれいにしたような町できれいにぼくは育った

裾上げを待つ ストⅡのデモ音がやけに響いているゲーセンで

ひとりだけ光って見えるワイシャツの父を吐き出す夏の改札

…すごく日常的な単語や光景。でも、暮らし系というよりは、切実に、生命に迫る方に向いている感じがします。

既製品のズボンを切る中で響く電子音。
会社から帰る父の吐き出される改札。
社会の規格やシステムの不安を匂わせつつも、ノスタルジックだったり、感傷的で、ただの社会批判には収まらない味わいにすごくリアリティを感じます。

カーテンが外へふくらみ臨月のようで中身は4年3組

理科室の三面鏡で先生がぼくを無限に殖やす四限目

宵闇にブルーハワイのベロというベロが浮かんでいる夏祭り

…子ども時代を詠んだ歌も印象的でした。学校のカーテン、よく膨らんでたなー!笑 でも、なんだか不安に感じるのは、母と子という個人じゃなくて、クラスを一絡げにして孕んでいる事。教室は、一律、平等に教育をする場で…I was bornではないですが、生まれるより、生まされる印象を受けました。

三面鏡も、あるある!なんですが 笑 先生が理科室で僕を増やす。というのが、精神的な意味で、クローンや量産を彷彿としました。

ブルーハワイで青い舌になるのは、楽しい思い出もあるけれど、食べる事、身体の色が変わる事、皆が同じ色になっている事、しかもそれを楽しんでいる事…要素が影響し合って、祭り、という、神話や異界の境界という事も重なり、何とも不安な気持ちになります。みんな妖怪にでもなったんじゃないかと思いました。

青いベロみたいに、意味を捉え直すと、ガラッと世界が変わる。その真実味。みたいな事も多く感じました。

ポケットの硬貨2枚をネクターに変えて五月の風のなか飲む

消しゴムも筆記用具であることを希望と呼んではおかしいですか

…100円玉ではなくて硬貨2枚。ジュースではなくてネクター。リアルな肌触りが続く事で、五月の風もただの状況というよりは、その時、その場だけの肌触りを感じます。そして、飲む。音が聞こえるようです。

そういう、日常の細かい引っかかりに、リアリティや生命感を感じる。消すものなのに筆記という枠に入れてもらっている事。とり零されずに拾われる事を、控えめに、おかしいですか?と、問うています。入れてあげたい!そうして救われる事が、希望なのだと思います。

つよすぎる西日を浴びてポケットというポケットに鍵を探す手

えっ、七時なのにこんなに明るいの?うん、と七時が答えれば夏

…岡野さんはこういった、細かい出来事や全てのことに、大切な事、生命に触れるものが含まれている事をとてもよく知っていて、それが自然に提示されています。ポケットの鍵を探すなんて本当に日常的な事だけれど、僕達は、普段から強い西日の様な圧力、何かに晒されていて、抜け出す鍵を探している。あらゆる手段、ポケットというポケットを活用している。手。と、倒置される事で、意のままにならない感じもしますね…ありきたりなのに、そのまま全てが比喩になるような…現実と詩的な比喩、示唆の敷居の無さにも舌を巻きました。
こんなに明るいの?あるある。多分、毎日の中で、自分の「七時感」みたいなものが出来上がっていて、気づいたら変わっているから驚くんですよね。時間を人に喩えるなんて、かなり突飛なはずなんですが、スッと、敷居なく七時が隣人になった感じがします。

安福さんのイラストも、ちょこちょこ入っていて、素敵です!
自分が美術系の人なので深掘りしてしまうんですが、日常のものや道具に、生命感や美しさを見出すというのは茶室以降すごくスタンダードな日本美術の形で…茶室には、歌や絵はいつも一緒にありましたよね。日常的なモチーフの短歌とイラスト、コンビネーション抜群だなー!とか、個人的に思いました。

装丁も素敵なので、是非是非、ご覧においで下さい〜!

書籍紹介ー伊波真人さん「ナイトフライト」

第59回、角川短歌賞を受賞されている、伊波真人さんの歌集。

かっこいい!歌集です。

夜の底映したような静けさをたたえて冬のプールは眠る

三脚は新種のけもの芝のうえ三つのあしを下ろしゆくとき

・・・タイトル含め、星や夜、ロマンチックなワードが多いですが、夢想や幻想よりに飛躍するよりは、伊波さんのフィルターを通した解釈、という印象を受けました。

柔さよりは、夜や世界の美しさ、強い肯定。俺がナイトフライトに連れて行ってやるぜ!ってくらいな、潔さ。

月までは行けないことは知っているそれでも強く自転車を漕ぐ

日食は白いリングでしめされて果たせなかった約束がある

シャッターを押すの見たことないけれど君のニコンは首飾りかい

・・・ややニヒルなくらいなのに、厭世感はあまりなくて。ナイトフライトの通り、スリルもドラマ。くらいの男らしさも感じました。

雲のない都心の空が映される暗いニュースとニュースのあいだに

東名はどこか寂しい響きだね 別れに向かい僕らは走る

電線は白紙の譜面(スコア) 郊外の町はいつも通り静かだ

星々の消えゆく朝にクレーンは少しかたむく虚空を指して

…ネットなどの情報ではシティポップがお好きで、映画、写真もやられていた様で…印象的で、フォトジェニックな光景が浮かびます。こう、魂の擦り切れる様なヒリヒリ感を吐き出すスタイルよりは、写真の様に美しい光景を切り取って詠んでいる様に感じます。それで力強くて、肯定的な世界観が生まれるのかな。などとも思いました。

発行日が12月24日というのも出来すぎです!レッツ、ナイトフライト!

ほんと、かっこよくてさらわれるかと思いました。

皆さま、お手にとってご覧ください!

書籍紹介-「うずく、まる」 中家菜津子 さん

第一回詩歌トライアスロンを受賞されている、中家菜津子さんの歌集です。

短歌だけでなく、詩も収められた歌集。

「うずく、まる」

「星を身籠るわたしは母なのです。この十年いのちのない塊の母であったのがわたしのおんなとしての正味だったのです」

「あなたのケースでは、これが最善の策です。リスクを冒してまで守るべきものなのですか」

「星が生まれる時、澄んでひかりながらしたたり落ちたものの重さを知らないのですね」

「術日を決めましょう」

うずく、まる

「わたくしはおんなとして星であるべき身体なのです」

ふとももと胸のふくらみくっつけて立派な椅子を信じていない

…表題にもなっている、「うずく、まる」。リフレインの様に入ってくる うずく、まる という言葉。リズムを刻んでいる様でありながら、演劇の様な語り口。短歌と詩の敷居がシームレスで、これぞトライアスロン…!と思いました。

薄氷を踏む子の列は通りすぎ小さな鳥へひかりを配る

ひとときの紅茶を淹れる読みかけの本はかもめのかたちに伏せて

火を飼ったことがあるかとささやかれ片手で胸のボタンをはずす

…澄んだ心象、けれど、すごくドラマティックです。全体的に、短歌を読んでいても、詩を読んでいる様な印象も受けました。

ストレートな写実よりは、心や状況を何かに喩えている事が多い。アニミズム的に物や自然に想いを託すよりは、ストーリーやシーン全体が、何かを表しているように見えて、モチーフもさることながら、演劇の語り口に近い感じがしました。

ドラマティックなのに、妄想や、ファンタジーという感じはあまりせず、やはり実感がぴったりとくっついている様に思います。

そして視覚的にも美しく、緊張感があり、とても澄んでいます。北海道にも住まわれていたそうで。雪国のモチーフも、それらを効果的に際立たせます。

月蝕の暗がりにいるいもうとは草むらに火をしずかに放つ

まっすぐな一本道の果てに立つポストに海を投函した日

悪夢から目覚めてママに泣きつけばねんねんころりあたまがころり

みもざ、みもざ 歌ってほしい耳もとで雨粒よりも小さな声で

ポケットに切符を探している人がポプラのように改札に立つ

ストーブの炎を鏡越しに見る(氷のような短いメール)

わたしには温かいときあなたには冷ややかな肌、冬を重ねる

一枚の大きな鏡が割れたのか本から顔をあげる砂浜

旭川駅は硝子に囲まれて茜はやがて焼け跡になる

干瓢の皮をひたすら剝く祖父がふいに微笑み左手を見る

パレットのような田を行く自転車よ黄色の絵の具を買い足すために

保育器へ向かう廊下は朝焼けの菜の花畑へ続く道のり

…短歌だけでなく、詩やドラマティックな光景もあり、心がぽわっと広がりましたね…!

色々な見方が出来ると思うので、じっくり、ご覧戴ければ嬉しいです!

書籍紹介-念力ろまん- 笹公人さん

新鋭短歌シリーズからいくつかご紹介したので、現代歌人シリーズからも。

笹公人さんの、「念力ろまん」です。

笹公人さんの「念力家族」は、NHKでドラマ化されたりもしたのでご存知の方も多いのではないでしょうか。

いわゆる、学校で触れるクラシックな短歌とは真逆を行くような作風。(こういうの、学校で習えたら素敵なのになー)

でも、決してコミカルなだけではなく、人間の深いところに刺さってくる歌集だと思います。

「黒板に吸い込まれる」と叫んでらフィラデルフィア事件をググりしばかりに

紫式部の腋の臭いを思いつつ黒板消しをはたいていたり

…フィラデルフィア事件は、戦時中、電磁波を発生させたら、戦艦が突如瞬間移動、たくさんの犠牲者がでた。というオカルト的な話です。ググったら、黒板に吸い込まれる!と、叫ぶ人。紫式部の腋の臭い考えた事のある人なんて、いるだろうか(笑)

オカルトも、紫式部も、現代では事実の様な半分フィクションの様な存在ですね。そういった所を突いて、混乱させてくる感じがします。

東進ハイスクール講師陣のキャラ濃かりけり地獄のディズニーランドのごとく

…東進の講師陣、楽しそうな感じもするけど、実際修羅場ですよね…!でも言い方がユーモラスで、揶揄する様な、現実感のない様な感じを与えます。

宇宙服のなかにまぎれる蚤などを思いて春の寝返りをうつ

…宇宙!ロマン!という思いを一発でちゃぶ台返しするような、蚤…!でも、そんなのもどうでも良いや。みたいな春の昼寝(?)

深刻だったり、深い意味のある言葉も詠み込まれているんですが、どれも一歩引いているというか。おもろ!と、読んでいくと、シュールさの裏で、心の空洞が大きくなっていく様な感じがします。さらに、叙情的だったりするんですよね。

こういうフィクションに片足を入れた世界にリアルな感触があるんじゃないか。というのも、世代的にわからなくなかったりして。

でも、圧倒的なベテランの方なので、一首だけ読むと、本当に綺麗だなぁ…という歌もたくさんあります。

何時まで放課後だろう 春の夜の水田に揺れるジャスコの灯り

網駕籠に野菜盛られて居酒屋は邪馬台国の宴のごとし

しゃらりんと虫取り網で掬いたし古井戸に棲む青き鬼火を

どろどろと木造校舎の背にのぼる黒入道と目が合えば、冬

…ジャスコのローカル感と青春感、たまらんですね…!三、四首目も、フィクションや幻視的なんですが…子どもの頃って、異界と繋がっていた感じがします。

砂漠で見る幻のごとローソンの青き看板灯りていたり

彦根城のプラモデルだけ残されて春の視聴覚室は暮れゆく

青春まで揚げていたのか あの夏の「つぼ八」厨房怒鳴られながら

すごく叙情的だったりファンキーだったり、ちょっと頭の中が忙しい。けれど、キチッと型にはまった世の中より、ちょっと混沌としてる世界の方が、実感が湧いたり…。入り込むと、中々でてこられない歌集です。

書籍紹介ーやさしいぴあのー 嶋田さくらこ さん

私も、お世話になったのでこちらから

嶋田さくらこ さんは、「うたつかい」というZINEも企画・発行されていて、吉田も、何度か投稿したことがあります。(すっかりご無沙汰してしまった・・・また投稿したい)
百数十名の投稿者がおり、みんな、twitterアカウントを持っています。若い歌人の、最新作品がぎゅっと詰まったZINEです。

そんな嶋田さくらこさんの歌集。
うたつかい同様、間口が広くて、すっと心に入ってくるものが多いです

主には…恋の歌!

仲直りしてあげるから買ってきて雪のにおいのアイスクリーム
君とよく行ったドラッグストアにはまだある同じ香りのシャンプー
薄紅に染めた指先潜ませたコートのポケット 早く気づいて
手のひらが大きいねって言ったこと去年の冬のことにしないで
淡雪がやさしい雨になりました 泣くならこんな日がいいでしょう

しかも、すごい量で、殆どが届かぬような叶っているような・・・
映画でいうと、どこを開いても名シーンという感じに、ときめきの連続であります。

バスタブの淵に沈まぬようにしておかえりなさいの練習をする
つぶやきは真夜中の雨 ささやきは暁の雨 春になりたい
日曜のまひるあなたを思うとき洗濯ものもたためなくなる
おとうふの幸せそうなやわらかさ あなたを好きなわたしのような
たんぽぽが綿毛を飛ばすつもりなどなかったようなさよならでした

で、緩急の繋がったストーリーがある、というよりはきらきらしたシーンが連続する。
という感じで、鑑賞しやすいですね。あまり、短歌に親しみのない方にもお勧めです。

多くは、恋のシーンを詠んだ歌で、嶋田さん自身の人物像やプライベートは出てきませんが、実家(地元?)の事を詠んだ章があります。

おう、わしやわしや、と電話かけてくるこの町のおじさんはみんな
みほちゃんの髪はほそくてやわらかい 冷たい水で洗うんだって
いなくなる妹たちのオルゴール鳴らせば子供部屋だったこと
父に似た娘は父に似つかない男に嫁ぎ、もう似ていない
信じたい神がいなくて毎日を何に祈ればよかっただろう
だんごむし生きているのかつらかった時代もあった 丸まっている
願わくばこの毎日がゆるやかに<とある未来>へ続きますよう

ノスタルジー感というか、戻らない昔の時間に思いを馳せる切なさと
重たさ。別に、昔に帰りたいとかじゃないんですけどね。変に作為や奇をてらうではなく、ストレートに詠んだ歌。ずしんと心に残ります。
恋の歌も、直球ストレートど真ん中!という感じです。

渾身の空振りだよね(エマージェンシー!エマージェンシー!)うるさいよ涙腺
長すぎる髪が背中でからまって起きあがれない このままでいい
「旅に出る」なんてセリフを男から聞かされている 女はつらいよ
みぞおちに猫をいっぴきのせたまま眠る夜明けは少しつめたい

これだけ恋の連続でも全然苦しくなったり、叶わなくても、不思議と読後は軽やかですね・・・!こういう、ユーモアの余裕もあるせいでしょうか。

他にもたくさんの歌がありますので、是非是非、直接ご覧ください!

書籍紹介ー瀬戸際レモンー 蒼井 杏 さん

 

新鋭短歌シリーズからも、ご紹介!蒼井杏さんの、「瀬戸際レモン」です。イラスト、かわいいですよね。

タイトルから、先に瀬戸内レモンを思い出してしまうのは私だけでしょうか…クラシックというよりは、カジュアル、クスッとする感じを受けましたが、勿論中身とも、深く繋がっていました。鼻歌を歌っているような、軽快さがあるんですよね。

 

アークトゥルス、スピカ、デネボラ、星の名をポケットに入れて非常階段

 

…ポケットにメモなのか、本なのか。非常階段からなら、空にいけそうな感じがします。

 

パプリカの場所だけマルシェ 洋梨のような女に生まれたかったな

キッチンに丸椅子ひとつ持ち込んでわたしの春の司令塔とする

マヨネーズのふしゅーという溜息を星の口から聞いてしまった

めすばとが歩いて逃げるおすばとがふくらんで追う ねむたいベンチ

…鼻歌、とも言いましたが、妄想がちな感じも好きです。邪念のある妄想じゃなくて、家でぼーっとしてる時にふと出てくる様な肩肘の張らない、でも生々しい。なんか、友達とソファに並んで座って、独り言を聞いているような、変な安心感があります。(伝わるか?笑)

 

空壜が笛になるまでくちびるをすぼめるこれはさびしいときのド

わたくしを全消去する はい/いいえ 夢の中までカーソルまみれ

 

…もちろん、底抜けに明るいばかりではなくて、陰や悲しみのある歌もあります。けれどやっぱり、どこかユーモアを織り込んでいます。空瓶を吹いたり。カーソルまみれ。って、ちょっと楽しそうだなー、なんて。

 

青空を押して回転ドアを出る 見るものすべてに檸檬の付箋を

…など、ポジティブな姿勢はおそらく意識的で、歌う事で世界を明るく捉えようとしてるんじゃないか。なんて、檸檬の付箋から感じました。

陰の中にもある言葉遊びや、リズム感も楽しかったです。

すみませんよわいわたしをはなしがいしているわたし こてん ぱん の きゅう

でもきっとなにもしないのがいいのでしょう くつひもほどくどんどんほどく

ぶなしめじぽろっとほぐれてだれもだれもわたしがわたしでごめんなさいって

内臓をかきまわすようにボールペンのためしがきするわた わた わたし

 

…悲しい事を歌っているのに、ひらがなやリフレイン、楽しいリズムが遊びに誘って来ます。嫌な事があるなら、鼻歌でも歌って散歩したらいいのさ!ぐらいに受取りました。親しい人からの手紙みたいな、すごく距離の近い、口語も特長的に感じます。

 

あ、雨が、そろばんはじく音で振る。ねがいましては―ねがうよ、君の

そうでした。秘すれば花で物干しに音のないシャツきちんとならべて

七時まで白夜なきもちでカーテンの波打際で待っていますね

 

めっちゃきゅんきゅんしますね…!具体的な出来事は、ほとんど隠されているので、その距離感とか、親しさ、気持ちの瀬戸際が鮮明に感じられます。

 

いちまいのきおくのたどりつくところ瀬戸際レモン明るんでゆく

 

記憶、経験の蓄積した気持ちの淵が、自ずと明るんでくる様な…ポジティブになる、歌集です。

是非お手にとって、ご覧くださいー!

-入荷しました!-「港の人」様 +書籍紹介 山田航 第二歌集「水に沈む羊」

当店では、出版社様より直接、歌集などを中心に仕入れさせて貰っています。
先日、「港の人」様より、幾らか入荷戴きました。
詩歌、文学、学術系を中心とした出版社さんですが、装丁が綺麗で有名ですね。
なにか一冊とりあげたいなー と思ったのですが、北海道の書店としては、外せないかな・・・!と、山田航さんの歌集です。

「水に沈む羊」タイトルだけだと、すごくファンタジックな印象も持っていたのですが・・・寧ろ、デジタルな表紙。ででん

羊+デジタルだと、「アンドロイドは電気羊の夢を見るか」とか思い出しましたね。映画「ブレードランナー」の原作にもなった、ややディストピア的なSF小説です。私の妄想かなーとも思いましたが、意外と外れじゃないかも・・・とか思いました。理由は後ほど

山田さんの歌は、陰があり、とても抒情的で、一見デジタル感とは無縁な感じがします。

■抒情

きみはそれを雨に喩へたまばたきのすきまを絶え間なく落ちる声
・・・まばたきの隙間の雨、涙、ということでしょうか。文語表現によるこの厚み。きゅんきゅんします

葡萄色の産科医院へ告げに行くずつとふたりで生きてゆくこと
・・・子どもが出来て、生涯の伴侶になる事。病院に告げる。というのが、子どもに誓う。という感じがして、はっとします。なじみのない、下手したらイミテーションの教会に愛を誓うより、こちらの方が、現代ではリアルなんじゃないでしょうか。葡萄も、キリスト教を連想させますね。

■社会へのまなざし。むしろパンク
ただ抒情で終わることなく、社会への冷静な眼差し、批判的な視点も多くあります。

五百年のちの人類 流星の塵を処理する技術はなやか
また塾ができたねこの街の夜はさながらこどもたちの王国
月の世のビルの上より降り注ぐ恋人たちの中絶費用

・・・無作為に引いてしまったので前後の流れが切れてしまいますが
五百年後の人類は、宇宙のごみ処理にも難なく手を出しているだろう。という事ですが、はなやかなゴミ処理。空しい感じもあります。

二首目、街が塾で溢れて、子どもの王国のようになっている・・・なんだか、夜景でも見る様な言い方が冷ややかです。

三首目、最後にいきなり出てくる、中絶費用。そこまでがすごく綺麗な分、かなり過激な感じがします。月≒妊娠 という連想

このように、むしろ過激な言葉も多い印象も受けました。

また雨だ唾液まみれの言ひ訳ももう届かない場所にきてゐる
・・・唾液まみれの言い訳・・・ボロ雑巾のようである。かなしい

郷愁へ向かふあやふさ草原の蛙声、暴走族の爆音
・・・一見なんだそりゃ、という感じもしますが、田舎といえば暴走族(違うか笑) 綺麗なだけの郷愁より、こういう現代の歪みのなかに、リアルを求めている。

きちきちのリチウム電池すきまなき思想家としてのグーテンベルク
・・・ちょっと難しいかなーとも思ったのですが、グーテンベルクと言えば印刷技術を生み出した人で、現代の科学や量産への道を開くきっかけとも言えます。きちきちのリチウム電池。コミカルな語感ですが、それもあいまって結構いやですよね(笑)
プロダクトや機械に溢れる志向としてのグーテンベルクなのかな、と思います。

舞ひ上がるフリーペーパー 街路樹に街は対称形を崩して
・・・量産されたフリーペーパーの崩壊。整えようとした街路樹も有機的になり、機械化の歪みが露わになる、感じがします。

時に過激な言い方で、現在のリアルな叫びを、批判も交えて形にする。パンクだな~なんて、思いました。

■内面を見つめた歌
純粋に、内面をみつめた歌も多くあります。全体を、陰が覆っています。

監獄と思ひをりしがシェルターであったわが生のひと日ひと日は
・・・檻だと思ってたら、自分で作った壁だったって奴ですよね・・・分かるわぁ(笑)

屋上から臨む夕映え学校は青いばかりの底なしプール
考へろなぜ教室に棺桶のかたちを真似たものが多いか
・・・スクールカースト底辺出身としては、共感しか生まれません

■その他

棄てられた草原、そこに降り注ぐ星のひかりを愛さう、せめて
・・・棄てられた草原。ややファンタジー感もあり、せめて、の喪失感。倒置法の降り注ぐ星のひかり。なんて、やや中二感も出るんですが・・・このフィクションぽい陶酔感が、むしろ、デジタル世代にはリアルだったりして。刺さりました。

昭和製のコイン入れれば震へ出す真夏を回りつくすさざなみ
・・・こんなにも、季節感と、翳りと、躍動感のるコインランドリーが、いまだかつてあっただろうか・・・!?好きです。

 

一発目と思って、引き過ぎました!装丁もとても綺麗なので、これは実物を見るしかないです!
来週から、書肆侃侃房さんのフェアも始めるので、そちらからも紹介していきます!お楽しみに!(むしろ私が楽しみ)