鈴木晴香さん『心がめあて』
バスタオルふたりで使う脱衣所でまたキスをしてしまう、ふりだし
カーテンが夜を創ってくれるからわたしがそれを本物にする
ロマンチックな読後感もありながらも、それは空想ではなく、感情のリアルな描写である事に気づかされます。生活の中でふりだしに戻ること、夜を本物にすること、非現実的なようでいて、恋の中で色んなものが吹き飛んでしまう感覚や、カーテンを締める形式的な夜より、本当の夜は、自分の心が動いたときに始まるのかも知れない。
見たことがないものだって抵当に入れられる、永遠の恋など
湖に指を入れたら少しだけ痛いと思う 湖の方が
バケットの端を突いている鳩のねじれる首を見てはいけない
驚くべき感受性と飛躍で、掴めないものを必死に確かめようとしている感じがする。見たことが無くても手にしている永遠の恋。引き換えに借り入れるものはそれよりも大きな、覚悟を感じる。
何かに関係することは、自らの何かが変わる事でもある。湖に手を入れる事で、自らの中の湖や関係に変化が起きる。それを、相手の痛みと感じるほどに、瑞々しく感性を研ぎ澄ませている。
感受性と、飽くなき探求心が、自然な動物の仕草の中にも、実は見てはいけない何かを見いだしてしまう。
美しい描写の中にも、すごく遠くまで連れ出してくれる飛躍や、生々しい実感、遊び心、ときめき、たくさんのものが詰まっています。