札幌の、樋口智子さんの第二歌集。
子ども達と過ごした、10年ほどの時間が詰め込まれています。
口語で、率直で、真っ直ぐな歌。
非現実的な例えや衒いもなく、説明不要に、ただ読んで欲しい。そんな歌集だと思います。
たくさんのレンズ降る降る雨の目は私の顔を映しては散る
少しだけ声低くなりわたしたち二度と戻れぬ旅なのだろう
全身を響かせて泣く腕の中いまだ楽器であるかのように
こどもらの声が溶け合う公園の空はいつでも空色をして
真っすぐな言葉、というのは、すごく難しいと思う。言葉を紡いだ時点で、必ず雰囲気や姿勢をまとってしまうし、重たさ、軽さ、スタイルを打ち出したいのが、人の心情じゃないかと思う。
そのままである様でいて、そういう意味ではすごく自制的にも見える。子どもの成長と共に、大切なことを強く、強く噛みしめているように思う。そんな事がじわじわと感じられてくると、なんでもない事が、すごく美しくみえる。暗い日があったとしても、透明感のある歌達です。
眠るまでとんとんしてやる手のひらに冬の太陽あつめあつめて
泣かないで耳の奥まで追わないで腕をおろしてしまいそうだよ
パンくずを残してわれのヘンゼルとグレーテル もう、帰っておいで
跳びはねて水面をたたく子の手から散るきらきらの幾つかは星
追いかけて声はどうにか届けども光の速さに呼びかけるよう
人に大切に向き合うと、1人では届かない、少し違う世界に届いてしまう事がある。子ども達が、人の世界を越えた神秘的な世界に行ってしまうこともあるし、そこに気持ちを注ぐ自らも、その領域に触れてしまう事もある。それは例えでもフィクションでもなくて、歌にされた時、本当の事なのだと思う。
シミー書房さんのイラストもかわいい。
シンプルで、大切にしたい1冊。