にしむらあきこ展「紙の韻律」

いよいよ、待っていた展示会が始まりました。にしむらあきこさんの展示会です。

和紙や、紙漉で作れられた造形、作品が並びます。紙箱、手帳、ブローチ、モビール…「恋の爪先」「雨の日のおたのしみ」「つもるひと」など、作品のタイトルが詩的なのも特徴的です。

かわいらしい造形、色彩、和紙ならではの奥行のあるテクスチャと深みが魅力です。

全体を見てみると、

『きこえる?』

『げっぷのうた』

『オノマトペのうた』

『ねこの国』

『夜の耳』

など、音に関わる作品が多い事に気がつきます。

「婦人の友」(2019年7月号)の対談で、息子の知青(ともはる)くんについても語られていますが、言葉を持たない彼が自分のやり方で世界を捉え、耳を澄まし、自分のやり方で表現するように。あきこさんも、いわゆる日本語以外の言葉(オノマトペや空気、時には景色やねこの声まで)を汲み取って、繊維一つ一つを組み合わせて、一枚の紙に漉いているのだと思います。

それらは、ときに悲しみや不安見えるものもありますが、全体は、とても大きな愛で包まれています。

「”うたうように”生きたい」(同誌)というあきこさん。その作品は、時に空想の世界や、ファンタジックな印象も与えるほど愛らしいものです。しかし、ともくんや、あきこさんが自らの方法ですくい取った世界と歌は実際に絵本の様に純粋で、音に溢れていて、跳ねるような光景が広がっているのだと思います。不安や困難がたくさんあっても、一枚の紙に漉く。答えを出す時には暖かで、リズムに溢れた、柔らかい世界であって欲しい。という意志や願いを強く感じる事ができます。

職人ではなくて、和紙造形作家のにしむらさん。見えている世界をありありと映す為の仕事なのだと、改めて実感しました。

表現の為の道具として技術を使うのではなく、より生々しく、心に寄り添ったところに仕事がある立ち姿は、作り手としても大変勉強になりました。

どこまでもテクスチャや奥行のあるにしむらさんの和紙ですが、そう思うと一つ一つの揺らぎや違いを凄く愛おしく思えてきます。

まさに和紙のように、細やかな思いが集められ、ぎゅっと凝縮した作品。直接、ご覧いただければ嬉しく思います。