瀬戸夏子さん『現実のクリストファー・ロビン』

瀬戸夏子さんの、2009-2017、エッセイや日記、評論、小説や詩の作品をまとめた本です。

まとめて読むことで通低する世界観や感性を感じられる様に思います。骨太な評論を書かれるイメージもありますが、その中にも常に敏感な感性や現実的な感情をひしひしと感じます。

その立ち位置やタイトルのヒントが、あとがきに書いてあります。

「クリストファー・ロビンのその瞬間の至福ほど、現実のクリストファー・ロビンは幸福ではないということにわたしはながいあいだ至福を感じつつけてきてしまったし、それはこのさきも変わらないだろうということに罪悪感と絶望がないかといえば嘘になってしまう」

また、この本をまとめるにあたって、
「うんざりするほどひとつのことしか言っていないように思えた。それは、わたしは常にクリストファー・ロビンを愛するが、現実のクリストファー・ロビンを知りたいという欲望に打ち勝つことはできず、結局のところ、そのふたりのあわいにあるものについて永遠に語りつづけていたい、という欲望である。」

とあります。

クリストファー・ロビンは、ご存知、くまのプーさんに出てくる少年です。

くまのプーさんの作者、A・A・ミルンは、息子のクリストファー・ロビン・ミルンをモデルとして、作品に登場させました。作品は大ヒットしましたが、実際の人間のクリストファー・ロビンは、お話しのなかに出てくるクリストファー・ロビン像に、生涯苦しめられる事になります。

クリストファー・ロビンの暮らす世界は夢のようで、すごく美しい。でも、その人物が実在するとしたら…?思いを巡らさずにはいられない。実際の作者が常に見えかくれする、短歌や文学全般へも、同じような事が言えるのだと思います。

瀬戸夏子さんの絶え間ない探求心や、渇望とも言えるほどの熱意。クリストファー・ロビンを追いかけ続ける姿、その躍動を見ることの出来る一冊です。