書籍紹介―多層のイメージの中の生々しさ 山田耕司さん「不純」

現代アーティスト山口晃さんのスタイリッシュな表紙が目を引きます。

 

目次をみても、

 

ボタンA

身から出たサービス

目隠しは本当に要らないんだな

 

など、トリッキーな印象です。

 

 

挿す肉をゆびと思はば夏蜜柑

肩に乗るだれかの顎や豊の秋

いきんでも羽根は出ぬなり潮干狩

 

もちろん、ただの面白さだけではなくて、生々しい印象が強く残ります。

 

 

いろいろの死んで秋なり白湯に色

名月や背をなぞりゆく人の鼻

糖分は足らぬが初蝶なればまあ

 

 

白湯、名月、初蝶。オーセンティックなワードチョイスと組み合わせる生々しさ。「いろいろの」などど命を雑にまとめてしまうラフさと、白湯に色を見てしまう繊細な描写。

今を生きる、すごくリアルな感触と、伝統的なイメージやビジョンの中をひょこひょこと散歩するような楽しさを感じます。

 

おっぱいに左右がありて次は赤坂

文鳥や用もなく見る野菜室

暗きよりセロリの出たり乳母車

 

用もなく見る野菜室。セロリ、という妙に生々しい感触。

 

 

春それは麦わらを挿す穴ではない

向日葵よ目隠しは本当に要らないんだな

水澄めり君なら月見うどんだらう

 

 

麦わらを挿す穴、向日葵の目隠しなど、抽象的で説明がなされない分、すごくゆるい印象で、等身大のリアリティのようなものを感じます。

何でもない時に、君は月見うどんを頼むだろう・・・と、想像できてしまう人が、身近に何人いるでしょうか。

 

奇をてらったようで、変な組み合わせの様で、実は核心を突いてしまうような何層にも感じ方の広がる魅力的な句集です。