角川短歌賞でも、「ホッケーと和紙」という、アイスホッケーをしながら和紙職人になることを夢想する、という設定(というのも、実際の体験の話ではないそうでhttps://note.mu/hikaruonoda/n/n3329649dc9ba)の連作で話題になった小野田光さんです。
宣伝用に制作されたフリーペーパーはプロレスのライターさんのインタビュー。
歌集にも、おまけで素敵なイラストのポストカードがついてきます。
とにかく、要素が豊富で、自由なイメージの小野田さんです。
風を待つ額に満ちるあかるさのようなオムライスを見つめたい
「ブロッコリーは小さな森よ」とママは云うまるごとたべるなんていやだよ
完璧なしゃぼん玉もうさようなら姉のブラウス私に似合う
苺好きと決めつけられて枝切りの鋏でみずから髪切る花屋
なかなかにたのしい記憶でしたのでふともも裏に貼っておきます
ほんのりと揺れることばを零す間に春がスパークしてるじゃないか
・・・読んでいて、あれ、これは小野田さん本人?設定?とか、よく分からなくなったり、これ何かの比喩かな?とか、考え始めたりもしたのですが、途中から止めました 笑
個性的な作品を作っているからといって何か世の中をひっくり返してやろうとか。
軽い事を言っているようで実は深読みしてほしいとか・・・
といったような難しい事じゃなくて、ただ楽しんで欲しい。(もちろん小野田さん本人も、とっても楽しく暮らしている。はず)というのが全面に見えてきて、肩の力がみるみる抜けていきました。
考えろと宣う課長がとんかつにとんかつソースをどろりとかける
守備につく白地に赤のストライプ戦闘服にしてはかわいい
妙な声きこえてないか八月の醒めた配置の福笑いから
思いつく言葉飲み込みふつふつとひじきばかりを炊くベーシスト
泣きながら力うどんをすすってる人に遭遇したことがある
・・・社会人の悲哀のようなものとか、ふと見つけてしまう不安だとか。ネガティブに見えるものもあるけれど、そういうものも含めてのあたたかい世界であるとか、なんだか全て包み込んでしまうような、懐の大きなユーモアを感じました。
君のこと知りすぎたかな肖像を描けば極彩色が溶けあう
北風に堪えきれなくて剝がされた銀杏はひかりつつ逢いにゆく
秒針がないまま廻っている時計 君は結論から話しだす
・・・1人の事を知りすぎて、猛烈に色味のついた、すごく個性的な人にしか見えなくなってしまう。相手の息づかいも聞こえるくらいの、近くで暮らしている事を思います。
実は貼り付いていただけの様に、風ではがれてしまう銀杏。それでも、命の1つとして光輝いている。その輝きの様に、大切な1つの心を抱えながら、逢いにいく冬の道。
一番身近にありながら、予兆なく不如意に動く時計。同じ様に、いつも近くにいる人から、急な結論が放たれる事もあります。時計の音がしないからこそ、静けさが強く強調される。
ただ笑わせようという事ではなくて、繊細な描写など、感じ入る事もたくさんあります。色んな人がでてくる事で、自由に視点が行き来することで、生きるって色々あるけれど、なんだか楽しいなぁ。と思わせてくれる歌集のように思いました。
しらす丼に付くデザートはミルフィーユ細かい仕事があふれだす街
・・・ほんとにこんな店あるだろうか!あるかも知れない。ちょっと嫌なような・・・でもデザートは欲しいような・・・ミルフィーユみたいに細かい事とか、重なったごちゃごちゃしたこと色々あるけど、結果、ミルフィーユって美味しいよね!みたいな(すごく雑ですみません笑)でも、前向きになってしまうような歌集でした。バンザイ!
(よ)