書籍紹介-美の実直な探求-鷺沢朱理さん『ラプソディとセレナーデ』

鷺沢朱理さんの第一歌集。美しさとは何か。という問題に、真っ正面から、直球で取り組んだ壮大な歌集です。

その決意、意志はあとがきにも強く刻まれています。

「優美であることはなんら浮ついたことではなく、この病んだ時代に充足の法則秩序としてより強く求められねばならない。」

長塚節からの引用

「今の評論界では只思想の面ばかり論じて、品位といふ事を閑却して居る」

「短歌に美を復権しなければならない。葛原妙子は「歌とはさらにさらに美しくあるべきではないのか」(『朱霊』後記)と問うた〜中略〜私には聴こえる、葛原の悲痛な叫びが。」

真っ直ぐで、強い執着とも言えるほど、美について真剣に向き合っている事が分かります。評論を書き続けているだけあり、深い見識や論理に基づいて作歌をされている事もうかがえます。

歴史を重んじながらも、内容は単なる古典的な形式や、いわゆるありきたりな歌集では決してありません。むしろ、かなり実験的なのではないでしょうか。連作のまとまりは楽章として仕立てられており、章によって屏風絵や源氏物語をモチーフにとったもの、ハドリアヌス帝、徽宗皇帝、聖武太上天皇ら皇帝や彼らの残した世界。ラフカディオ・ハーンや伊勢物語など、幅広い美学的、歴史的見識を駆使して、途方となく壮大なテーマを相手取って作られた、骨太の大作です。(よ)