『ぼく(石井僚一)の考える最強の短歌フェア』トークイベントの報告

7月7日、石井僚一さんの批評会に際したフェア(継続中)、それにまつわるトークを開催させて戴きました。以下が、こちらでご用意させて戴いたリストです。(順不同)

●山田航『さよならバグ・チルドレン』(ふらんす堂、2012年)
●田村元『北二十二条西七丁目』(本阿弥書店、2012年)
●樋口智子『つきさっぷ』(本阿弥書店、2008年)
●服部真里子『行け広野へと』(本阿弥書店、2014年)
●伊舎堂仁『トントングラム』(書肆侃侃房、2014年)
●谷川電話『恋人不死身説』(書肆侃侃房、2017年)
●水原紫苑『びあんか・うたうら 決定版』(深夜叢書社、2014年)
●岡崎裕美子『わたくしが樹木であれば』(青磁社、2017年)
●熊谷純『真夏のシアン』(短歌研究社、2018年)
●笹井宏之『ひとさらい』『てんとろり』(書肆侃侃房、2011年)
●道浦母都子『無援の抒情』(ながらみ書房→はる書房、2015年)

戴いたコメントと、トークで補足いただいた内容を併せて順不同で紹介していきます!

■ぼく(石井僚一)の考える最強の短歌フェア

道浦母都子『無援の抒情』(ながらみ書房はる書房、2015年)
ここが最強!!!!!➡ 全共闘!!!!
明日あると信じて来たる屋上に旗となるまで立ちつくすべしぼくは全共闘世代のひとにシンパシーを感じていて、どちらかというとその角度からこの歌集が僕の手元に滑り込んできた!!!「父親のような雨に打たれて」という連作を作るときにこの歌集を読んでいて、連作の作り方はこの歌集から倣ったと言っていい。この歌集がないと僕はここにいなかった!!!!!!!!ありがとう道浦さん!!!!!!

—トークでは、石井さんが全共闘自体に興味があり、短歌とは別ラインで入ってきたと言う話。
闘う、生きる、という事にかっこいいとは思っているそうですが、石井さんご本人は、仲良くやるべき。という意識をむしろ強く持っている方でした。歌会活動家。と名乗るくらいで、とても人間関係を大切にしている印象です。樋口さん、田村さん、山田さんなど、地元の先輩に対しても、強い思いがある方。とにかく、穏やかな語り口やお話のなかにも一貫して、感情を強く持っている方でした。

伊舎堂仁『トントングラム』(書肆侃侃房、2014年)
ここが最強!!!!➡ 真面目!!!!!!!
元彼女にいつでも会えるなぜだろういま筆跡が似てきてるのは説明しているうちのそれがだんだん言い訳みたいになってきて焦ってきて言葉の数が増えてそのことについて話しているうちにどんどん本題から遠ざかって自己弁明のようなものがが増えていく、みたいなことが嫌で事前に状況をしっかりと説明していると結局本題には入らなくて、斜に構えているように見えるけれど全部本気だ!!!!!!!!というような歌集です。

谷川電話『恋人不死身説』(書肆侃侃房、2017年)
ここが最強!!!!➡ キモイ!!!!!!
ああこれもぼくの抜け毛だ またきみの抜け毛が見たい もどっておいでキモい!キモい!これが恋愛だ!!!!!フラれたら未練たらったら!!!!!それでもこれが恋愛だ!!!!恋人と一緒ならおのろけ&おとぼけ!!!喉元過ぎればキモさも忘れて、これが僕たちのピュアな気持ちだと思えてくる!!!!!!!!

ー以上の2人は、女の子への歌も多くて、男の子という所は自身のスタンスとは共通している。との話。
対して、真逆とも言えるスタンスの熊谷さん。

熊谷純『真夏のシアン』(短歌研究社、2018年)
ここが最強!!!➡ 人生!!!!!!!
わが家から最寄りのコンビニにてレジを打ちては帰るもうすぐ七年1974年生まれの作者の2010年~2017年の短歌が収められた第一歌集。引用した歌の通りアルバイトをしながら、恋をしながら、生や死について思いを巡らせる一冊。この一冊が素晴らしいのはコンビニバイトを長年やり遂げる熊谷さんの、何年も変わらない真面目さであって、誠実さであって、こういう人が短歌を通してこうやって現れてくることがひたすら嬉しいです。

—ストイックに、たんたんと日常の中で歌い続けるスタンス。この温度をキープして出てくる厚みは凄い。自分はこうはなれないし、重みがあって、押している歌集。との事です。入力していて、文字数も少ない。定型でかっこいい。重たさ、という面では

水原紫苑『びあんか・うたうら 決定版』(深夜叢書社、2014年)ここが最強!!!!
➡ お買い得!!!!
飲食のひとびと脚を失へり 花があふるる花瓶のやうに美意識、というものを突き詰めていくときに、やっぱり現実社会(あえて「社会」をつけます)というものは美からは遠いわけで、この歌集は美しいとともに暴力的でかつ残酷だ。そんな水原紫苑さんの第一・第二歌集がセットになって2000円+税!お買い得!!!!!!

—も立ち位置は違えど、かっこいい。やるやらないは別にして、作ってみたい。とは思う。との話。

笹井宏之『ひとさらい』『てんとろり』(書肆侃侃房、2011年)ここが最高!!!
➡ 魔法の呪文!!!!!!!!
えーえんとくちから えーえんとくちから 永遠解く力を下さい言葉に人間を(ないしは人間の心を)まもる力があるのだとしたら、僕はなんとなく笹井宏之の歌にその力を見出したいな、と思っている。持ち運べるおまもり。笹井さんのおかげで短歌の世界は間違いなく良くなっているし、短歌をやる人の環境も良くなっているはずで、この二つの歌集から今の盛り上がりがある!!!!魔法の短歌だ!!!!

—は、初めて買った歌集で、忘れられない、入れざるを得ない歌集だった。ねむらない樹の関係もあり、最近も読み直して改めて感じ入っていたそう。

吉田隼人『忘却のための試論』(書肆侃侃房、2015年)ここが最強!!!!
➡ 美意識!!!!!!!
いもうとの手首癒えねば我ひとり猫の死骸を埋めにゆくなり若い歌人のなかでははっきりと異彩を放っていて、なんというか吉田隼人さんの歌はどれも重たくて寂しそうだ。それでいて硬くて美しい。僕なんかが軽率に指を触れることは躊躇われるのだけれども、光をあてるのは躊躇われるのだけれど、それでも最強!の括りにこの歌集を入れないのはおかしいので入れました!!!!!!
—とりあえずかっこいい。俺もなりたかった(笑 との話でした。死に向かっているタイプではあるが、長生きして欲しい。やはり受賞作の連作はべらぼうにいい。震災の体験も含め、厚みもあり良い歌集である。

岡崎裕美子『わたくしが樹木であれば』(青磁社、2017年)ここが最強!!!!➡ ド直球!!!!
子がいたらこのような夜を過ごすのか眠るまで君の髪を撫でたり二十代の頃の第一歌集では<羽根なんか生えてないのに吾を撫で「広げてごらん」とやさしげに言う>と歌っていた岡崎さんの、それから十数年経っての境地がここに!!!!!生みえなかった子どもを夢想しつつ、年下の男を抱く!!!!!!!死とは?愛とは?命とは?生きるとは?ド直球の人生に圧倒される。ぞくぞくする。

—2017年の中では一番刺さった。生や死に触れながらも、性愛。年下の男を抱く。などの赤裸々な連作は刺激的で、父の死なども生々しい歌集。ビビった。

樋口智子『つきさっぷ』(本阿弥書店、2008年)ここが最強!!!!
➡ この北海道感がすごい!!!!雪のにおい つんと染みてる鼻の奥なんだか切ないにおいなんですここが北海道だ!!!!僕は雪がつらくて北海道から脱出したけれども、とどまり続ける人がいる。樋口さんはとどまったひとの一人だ。この歌集には北海道で生活をすることの、その雰囲気が十全に出ている。その向こう側で樋口さんがときおりやさしい表情を浮かべるのだ!!!!!!!(今回、本当に全然流通していない本書を樋口さんにお願いしていれてもらいました!この機会に買わなきゃ損!あと片山若子の表紙が最高)

—あまり流通もしていないのですが、とてもおすすめ。表紙の絵も羨ましい。
石井さんの歌集も、イラストなどを入れる案もあったそうですが、セキネシンイチさんにおまかせしたら、絵をいれるという提案もなく、中のタイトルのフォントや構成などもセキネさんからの提案。お任せで、この刺激的なブックデザインになったそう。

山田航『さよならバグ・チルドレン』(ふらんす堂、2012年)ここが最強!!!!
➡ 短歌はホームランだ!!!!ホームランが打ちたかった。打った瞬間にわかるような手応えを感じたかった。不全感の向こう側で我々は短歌と出会った。出会ってしまった!そんなあとがき(正確には「あとがきにかえて」と副題を添えられた散文)を読んで一通り落涙!そうして短歌を読むと、山田さんが短歌を楽しそうにつくる様子が見えてくる!!!!見える!!!!みんな!短歌をつくろう!!!!!

—それこそ山田さんのブログ、影響で短歌会に入った。欠かせない人。あとがきを長くきちんと書いたのも、山田さん、バグチルドレンの影響である。

田村元『北二十二条西七丁目』(本阿弥書店、2012年)ここが最強!!!
➡ バカヤロー!!!!!!俺は詩人だバカヤローと怒鳴つて社を出でて行くことを夢想す人生は熱い。田村元というナルシシズムの雄が、<花びらを上唇にくつつけて一生剝がれなくたつていい>と学生時代に高らかに歌い上げた男が、社会の中で「俺は詩人だバカヤロー」と怒鳴ることができない。そんな冴えない現実を歌っている!!!!これも短歌で、これも人生だ!!バカヤロー!!!!!俺も怒鳴りたい!!!!!(今回あまり流通していない本書を田村さんに直接お願いしておいてもらいました!ありがとうございます!)

—田村さんも北大の方で、学生を経て働き出し、だんだん会社に疲弊していくリアルに引き込まれる。その中で顔を出す詩人の顔。赤裸々な形に魅力を感じる。

服部真里子『行け広野へと』(本阿弥書店、2014年)ここが最強!!!!
➡ 強い!!!!!!!野ざらしで吹きっさらしの肺である戦って勝つために生まれたできれば勝ちたいが戦うのは面倒だな、と僕なんかは思ってしまうのだけれど、なんというかそのことこそある程度満ち足りていることの証明で、服部さんは野ざらし&吹きっさらし!!!!しかも肺!!!!最初っから背水の陣みたいな人のつかう言葉はやっぱりなんか違くて、やっぱり強い!!!!!!!!!!!!!!それでいて芯が通っているから美しい!!!!!!!!!!

—まずかっこいい。買って下さい。独特の文体で、美しさを追求している。意味がとれなくてもかっこいいレトリック。

こちらからの質問で、歌集は作歌の参考にしますか?という事に関して

—かなり参考にしている。最初は、読み解くために作っていたくらいだった。よく真似もしているが、周りには伝わっていない(笑)真似しても真似にはなかなかならないので、歌集を読んで真似をする事は良いと思う。歴史や伝統は尊重したいし、精神としては在野である。半分歌人、のような感覚もある。短歌は、生きる方に向かって欲しい。吉田隼人さんも墓碑のような歌集でもあるが、みんな、死なないで欲しい。選んだ歌集も、生きている人、読まれたがっているはずの人の本を選んだ。との話もありました。
百年後に伝わる短歌じゃなくて、いまの人に伝えたい。そういう在り方を志向している。生きているからこそ良い歌を作りたい。死にたい。とか、はあまり言わないようにしましょう。辛いことを書くより、楽しい、良いことを書く短歌の方が良いと思っています。などなど、歌集制作過程の話も含め、フランクに色々と聞ける会でした。

翌日、書肆吉成さんでの朗読も、とても情熱的でした。今後とも、歌人、歌会活動家、石井僚一新人賞など、枠を超えた活躍、注目していきたいと思います!

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