書籍紹介ー小佐野彈さん「メタリック」

話題の一冊。装丁、鈴木成一デザイン室。まず目を引く表紙とテクスチャです。

帯には「オープンリーゲイとして生きる自分の等身大の言葉を、短歌という「31文字の文学」で表現する」
とあります。

家々を追われ抱きあふ赤鬼と青鬼だつたわれらふたりは
ほんたうの差別について語らへば徐々に湿つてゆく白いシャツ
ぬばたまのソファに触れ合うお互いの決して細くはない骨と骨
赤鬼になりたい それもこの国の硝子を全部壊せるやうな
どれほどの量の酸素に包まれて眠るふたりか 無垢な日本で

第60回短歌研究新人賞でも話題になった、連作です。
赤鬼、青鬼。思い出すのは、絵本の「泣いた赤鬼」でした。
人間と仲良くなりたかった赤鬼は、色々人間をもてなそうとしますが、上手く行かない。
ついには、青鬼が(赤鬼に黙って)犠牲になり人間と赤鬼を繋いで、さらに赤鬼に迷惑がかかるから。と、遠くに旅立ってしまっていた。という話。

二首目。
本当の差別。とはなんだろう。と、多くの人が思うかと思います。
単純な強さ、切り口、質の問題、など色々想像したけれど、なかなかたどり着けない構造にある様に思います。しかし実体は、真理のように語れるものではなくて、シャツの湿りのような、体感的なところにあるのだと思います。

五首目
表題にもなっている無垢な日本。ふたりにとってはとても呼吸のし辛い世界という意味かと思います。

広告などではセンセーショナルに語られがちなのですが、全体は穏やか。自己抑制的、でも、暗くはない印象です。
独裁者になって人を罰してやろう。じゃなくて、物語にいるような鬼になって、硝子を壊してやろう。という抑制。
無垢な日本、というのは、なにもないという事で批判的にもとれるし、辞書的には肯定的な意味にもとれます。

YouTubeひらけば画面いつぱいに廃墟。そろりと起きてシャワーへ
こんなにも明るい夜に会ふなんて今日のふたりはどこかをかしい
亜麻色の髪つんつんと逆立ててぬるい夜風に君が刃向かう
お茶割りで夢を語らふくちびるに蛍火ほどの微熱はうまれ

タイトルにもなっている「メタリック」は大好きな連作でした!長めながら、恋人に会う一日の流れが緻密に描写されています。
都市の硬質感、寂しさを重低音にしながら、全体的には、つられてウキウキドキドキする展開・・・段々気持ちが高まっていく、ドライブ感が楽しかったです。
(新宿デート、したくなりますね・・・(笑)

抑圧の名残り まあるくやはらかで少しぴりりとするバインミー
鬼の棲む島といふ島焼き払ひやつと安心ですか 祖国は
つながりは夜に危ふく保たれてユダはイエスのかたへに眠る

などは分かりやすいですが、身の回りの問題を越えて人類や国家、広い視点への問題意識や愛情が基盤にあるようにも思います。世界の不条理や歪み、その悩みを示唆するような歌はたくさんあるのですが、やたらに噛みついたり、投げやりになるような歌はほぼ無いように感じます。本当に強い、花のようなお方・・・

ほぼ同じ青の短パン脱がしあひながらおやすみ、ドロシーと言ふ
軋むほど強く抱かれてなほ恋ふる熱こそ君の熱なれ ダリア
弓張のひかりのなかを黒髪はたゆたひながら結はれゆきたり

ストライクに、美しい・・・という歌も多くて、好きでした。
など殆んど、小佐野さんの視点や、歌の美しさについて書こうと思ったのですが、頭のもう片方ではマイノリティの抱える問題や、現状、自身の意識について向かい合わざるを得ませんでした。歌人個人の体験を通して、世界の深いところ、広いところにまで導いてくれる、短歌の強さも再確認した次第です。とはいえ、決して硬くはないので、たくさんの方が読んでくれたらなぁ・・・と思います。(よ)

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