小津夜景さん『カモメの日の読書 漢詩と暮らす』

『フラワーズ・カンフー』などでも話題の、小津夜景さんの、漢詩の翻訳+エッセイの本・・・
と、言ってみたものの、おそらく、多くの方が先入観として持つ漢詩やエッセイのイメージを清々しく、刷新してくれる本です。

私自身がそうでしたが、漢詩というと、やや硬くて、重たそうなイメージ。エッセイには、ライトに日常を心地よく綴るというイメージがありました。
敷居が低いと聞いて入門書のようなイメージを持つ方がいたら、それは全くの思い過ごしで、本当に心から魅力的な詩集として、漢詩の数々が立ち表れてきます。そして、小津さんの語りを通して、気づけば文学の深く大切な所に触れてしまう、飛躍力のある本だと思います。

小津さんの俳句の力を知る方には説明不要ですが、小津さんの紹介する漢詩はとても軽やかで、生きる事へのまなざしに溢れています。それらが、フランスでの生活や日々の思考のエッセイと境なく融合していて、今の僕たちでも、手に触れるように実感できる驚異的な表現力に満ちているように思いました。エッセイにも多くの詩歌が引かれていますが、それらが小津さんの圧倒的な知識、思索、感性でひとつなぎになって、全体として詩形を越えた一つの詩を読んでいるような気になります。とても、漢詩+エッセイという言葉だけでは収まり切らない作品です。

タイトルにもなっている、冒頭の一節より

1, カモメの日の読書

かぼそい草が
かすかな風にそよぐ岸
帆柱をふるわせる夜船に
わたしはひとりだった

満点の星は
地をすれすれまでおおい
ひろびろと野が見晴らせる

黄金の月は
波にくだけつつきらめき
ゆったりと河が流れていく

世に出るのに
文才などなんの役に立つだろう
官職にしがみつこうにも
いまや齢をとりすぎてしまった

あてもなくさすらうわたしはまるで
天地のあわいをただよう一羽のカモメだ

(杜甫「旅の夜、想いを書く」)

なんとなくフランスにやってきて、国内をあちこち移動しているうちにどんどん貧乏になって、それでも日本から持ってきた本やCDを売り払って食いつなげるうちは良かったけれど、そのうち売るものもなくなり、ああこの先どうやって生きてゆこうと夫婦で困っていた。するとそこへ、
「うちだ雇ってあげるから来なさい」
と声をかけてくれたひとがいた。」

・・・などと、ふいに引き寄せてくれた人、その人も流れ者で、いくつかの国での博士号までもっている不思議な人に出会い・・・と、漢詩や俳句に思いを馳せながら、世界を掘り下げていきます。本当に自然に、詩歌を身体の中に携えて生きている方なのだと思います。読んでいくと過去の先人、国内外の文豪、語感、対句、集句、中国の世界観、狂歌や遊び、戦争と言葉、ついには初めてのストリートファイト(!)の話まで、色々な知識も入ってきます。付録のノワール論なども、とても面白いです。

詩歌に携わる方にも、そうでない方にも、一度は触れてほしい一冊!

「ぼく(石井僚一)の考える最強の短歌フェア」

『死ぬほど好きだから死なねーよ』刊行記念! 「ぼく(石井僚一)の考える最強の短歌フェア」

開催しています。

◆トークイベント

・7/7日10時半~ 石井さんご本人によるトークイベント開催します!

批評会の前に、ふらっとお立ち寄りくださいませ。

札幌は様々な短歌のイベント盛りだくさんの二日間です!

第2回がたんごとん歌会

みなさん、本日の歌会のご参加、ありがとうございました!

「鉄道」というテーマで、叙情的なものが多かったです。

最多票は、月原真幸さん @mayukiuta でした!

日のあたるほうのシートに腰かけて光合成をする南北線

特に、地下から地上にでる、札幌の南北線の描写で、多くの共感を得ていました。地元の歌会ならでは、という感じがします。

次回は、8月の予定!
今日も、初めての方、見学の方もいらっしゃって、嬉しかったです。初心者歓迎!
皆様のご参加、お待ちしております。(よ)

書籍紹介ー小佐野彈さん「メタリック」

話題の一冊。装丁、鈴木成一デザイン室。まず目を引く表紙とテクスチャです。

帯には「オープンリーゲイとして生きる自分の等身大の言葉を、短歌という「31文字の文学」で表現する」
とあります。

家々を追われ抱きあふ赤鬼と青鬼だつたわれらふたりは
ほんたうの差別について語らへば徐々に湿つてゆく白いシャツ
ぬばたまのソファに触れ合うお互いの決して細くはない骨と骨
赤鬼になりたい それもこの国の硝子を全部壊せるやうな
どれほどの量の酸素に包まれて眠るふたりか 無垢な日本で

第60回短歌研究新人賞でも話題になった、連作です。
赤鬼、青鬼。思い出すのは、絵本の「泣いた赤鬼」でした。
人間と仲良くなりたかった赤鬼は、色々人間をもてなそうとしますが、上手く行かない。
ついには、青鬼が(赤鬼に黙って)犠牲になり人間と赤鬼を繋いで、さらに赤鬼に迷惑がかかるから。と、遠くに旅立ってしまっていた。という話。

二首目。
本当の差別。とはなんだろう。と、多くの人が思うかと思います。
単純な強さ、切り口、質の問題、など色々想像したけれど、なかなかたどり着けない構造にある様に思います。しかし実体は、真理のように語れるものではなくて、シャツの湿りのような、体感的なところにあるのだと思います。

五首目
表題にもなっている無垢な日本。ふたりにとってはとても呼吸のし辛い世界という意味かと思います。

広告などではセンセーショナルに語られがちなのですが、全体は穏やか。自己抑制的、でも、暗くはない印象です。
独裁者になって人を罰してやろう。じゃなくて、物語にいるような鬼になって、硝子を壊してやろう。という抑制。
無垢な日本、というのは、なにもないという事で批判的にもとれるし、辞書的には肯定的な意味にもとれます。

YouTubeひらけば画面いつぱいに廃墟。そろりと起きてシャワーへ
こんなにも明るい夜に会ふなんて今日のふたりはどこかをかしい
亜麻色の髪つんつんと逆立ててぬるい夜風に君が刃向かう
お茶割りで夢を語らふくちびるに蛍火ほどの微熱はうまれ

タイトルにもなっている「メタリック」は大好きな連作でした!長めながら、恋人に会う一日の流れが緻密に描写されています。
都市の硬質感、寂しさを重低音にしながら、全体的には、つられてウキウキドキドキする展開・・・段々気持ちが高まっていく、ドライブ感が楽しかったです。
(新宿デート、したくなりますね・・・(笑)

抑圧の名残り まあるくやはらかで少しぴりりとするバインミー
鬼の棲む島といふ島焼き払ひやつと安心ですか 祖国は
つながりは夜に危ふく保たれてユダはイエスのかたへに眠る

などは分かりやすいですが、身の回りの問題を越えて人類や国家、広い視点への問題意識や愛情が基盤にあるようにも思います。世界の不条理や歪み、その悩みを示唆するような歌はたくさんあるのですが、やたらに噛みついたり、投げやりになるような歌はほぼ無いように感じます。本当に強い、花のようなお方・・・

ほぼ同じ青の短パン脱がしあひながらおやすみ、ドロシーと言ふ
軋むほど強く抱かれてなほ恋ふる熱こそ君の熱なれ ダリア
弓張のひかりのなかを黒髪はたゆたひながら結はれゆきたり

ストライクに、美しい・・・という歌も多くて、好きでした。
など殆んど、小佐野さんの視点や、歌の美しさについて書こうと思ったのですが、頭のもう片方ではマイノリティの抱える問題や、現状、自身の意識について向かい合わざるを得ませんでした。歌人個人の体験を通して、世界の深いところ、広いところにまで導いてくれる、短歌の強さも再確認した次第です。とはいえ、決して硬くはないので、たくさんの方が読んでくれたらなぁ・・・と思います。(よ)