劉暁波氏を初めて知ったのは、新聞でした。概ねは人権活動家が国家に捕らえられている。というニュースで、詩人、というのはこの本を通じて知りました。
こんなページを開いてくれる方は、詩歌に関心のある方が多いと思います。そんな方は、詩人は世界について真剣に考え、向き合い、戦っている事も知っているかと思います。これらの本に収められている散文や詩は、彼の活動や言動が、人々の為に活動家として戦った事を強く感じさせます。寧ろ、命を賭して人間の為に戦う事と、詩をつくる事が同じ事だったんじゃないか。とすら思います。
一匹の小さな鼠が鉄格子の窓を這い
窓縁の上を行ったり来たりする
剥げ落ちた壁が彼を見つめる
血を吸って満腹になった蚊が彼を見つめる
空の月にまで魅きつけられる
銀色の影が跳ぶ様は
見たことがないくらい美しい
今宵の鼠は紳士のようだ
食べず飲まず牙を研いだりもしない
キラキラ光る目をして
月光の下を散歩する
ーーーーーーー「牢屋の鼠ー霞へ」
情景としては、冷たく厳しい、静謐と悲しみがあります。でも、絶望や後ろ向きの感じは殆どありません。暗闇の中で美しく駆けるネズミの様に、必ず一閃の希望が描かれています。
また、妻の霞さん、または、荘子、カフカ、ウィトゲンシュタイン、かつての偉人へ向けた詩のシリーズも特徴的です。
冷えびえと空にかかる月のように
それは僕の頭上高くかかっている
きらきらと輝きながら高慢に見下ろし
僕を窒息させようとする
背景に深々と広がった
墓から飛び出してくる幽霊のようだ
君に神聖と純潔を捧げよう
ただ一度夢の中で親密に交わるだけでいい
肌と肌の燃焼など求めないが
視線だけを冷たく染めながら
火焔が蒼白の中に消え去るのを見つめている
空の嘆き悲しむ姿が広漠すぎて
僕の魂の目では見破れない
僕に一滴の雨水をくれ
地面の泥を洗い流すから
僕に一筋の光をくれ
閃きの問いがみつかるだろう
君が一つの言葉を発すると
この扉が開き
夜を家に招き入れる
ーーーーー「牢屋の鼠」妻へ
大きな闇の中にいながらも、世界を、歴史を知り、確実に誰かと繋がろうとしている。詩を書くことで、世界を肯定しようとしている事を強く感じました。
また、大義名分や正義の為、というより、ただ目の前の大切な人の為に戦った人だ。という事も感じます。
元の本は、霞さんとの2人の詩集だそうです。霞さんの「毒薬」とも読み比べると同じ視点を持っていながらも、暁波さんからの強く激しい愛と、そのアンサー。壮大なラブレターとも読めます。
世の中には様々なニュース、政治問題などがありますが、どこにも根本には熱く血の通った人間がいる。という事を思い返させてくれました。