第一回詩歌トライアスロンを受賞されている、中家菜津子さんの歌集です。
短歌だけでなく、詩も収められた歌集。
「うずく、まる」
「星を身籠るわたしは母なのです。この十年いのちのない塊の母であったのがわたしのおんなとしての正味だったのです」
「あなたのケースでは、これが最善の策です。リスクを冒してまで守るべきものなのですか」
「星が生まれる時、澄んでひかりながらしたたり落ちたものの重さを知らないのですね」
「術日を決めましょう」
うずく、まる
「わたくしはおんなとして星であるべき身体なのです」
ふとももと胸のふくらみくっつけて立派な椅子を信じていない
…表題にもなっている、「うずく、まる」。リフレインの様に入ってくる うずく、まる という言葉。リズムを刻んでいる様でありながら、演劇の様な語り口。短歌と詩の敷居がシームレスで、これぞトライアスロン…!と思いました。
薄氷を踏む子の列は通りすぎ小さな鳥へひかりを配る
ひとときの紅茶を淹れる読みかけの本はかもめのかたちに伏せて
火を飼ったことがあるかとささやかれ片手で胸のボタンをはずす
…澄んだ心象、けれど、すごくドラマティックです。全体的に、短歌を読んでいても、詩を読んでいる様な印象も受けました。
ストレートな写実よりは、心や状況を何かに喩えている事が多い。アニミズム的に物や自然に想いを託すよりは、ストーリーやシーン全体が、何かを表しているように見えて、モチーフもさることながら、演劇の語り口に近い感じがしました。
ドラマティックなのに、妄想や、ファンタジーという感じはあまりせず、やはり実感がぴったりとくっついている様に思います。
そして視覚的にも美しく、緊張感があり、とても澄んでいます。北海道にも住まわれていたそうで。雪国のモチーフも、それらを効果的に際立たせます。
月蝕の暗がりにいるいもうとは草むらに火をしずかに放つ
まっすぐな一本道の果てに立つポストに海を投函した日
悪夢から目覚めてママに泣きつけばねんねんころりあたまがころり
みもざ、みもざ 歌ってほしい耳もとで雨粒よりも小さな声で
ポケットに切符を探している人がポプラのように改札に立つ
ストーブの炎を鏡越しに見る(氷のような短いメール)
わたしには温かいときあなたには冷ややかな肌、冬を重ねる
一枚の大きな鏡が割れたのか本から顔をあげる砂浜
旭川駅は硝子に囲まれて茜はやがて焼け跡になる
干瓢の皮をひたすら剝く祖父がふいに微笑み左手を見る
パレットのような田を行く自転車よ黄色の絵の具を買い足すために
保育器へ向かう廊下は朝焼けの菜の花畑へ続く道のり
…短歌だけでなく、詩やドラマティックな光景もあり、心がぽわっと広がりましたね…!
色々な見方が出来ると思うので、じっくり、ご覧戴ければ嬉しいです!