新鋭短歌シリーズからいくつかご紹介したので、現代歌人シリーズからも。
笹公人さんの、「念力ろまん」です。
笹公人さんの「念力家族」は、NHKでドラマ化されたりもしたのでご存知の方も多いのではないでしょうか。
いわゆる、学校で触れるクラシックな短歌とは真逆を行くような作風。(こういうの、学校で習えたら素敵なのになー)
でも、決してコミカルなだけではなく、人間の深いところに刺さってくる歌集だと思います。
「黒板に吸い込まれる」と叫んでらフィラデルフィア事件をググりしばかりに
紫式部の腋の臭いを思いつつ黒板消しをはたいていたり
…フィラデルフィア事件は、戦時中、電磁波を発生させたら、戦艦が突如瞬間移動、たくさんの犠牲者がでた。というオカルト的な話です。ググったら、黒板に吸い込まれる!と、叫ぶ人。紫式部の腋の臭い考えた事のある人なんて、いるだろうか(笑)
オカルトも、紫式部も、現代では事実の様な半分フィクションの様な存在ですね。そういった所を突いて、混乱させてくる感じがします。
東進ハイスクール講師陣のキャラ濃かりけり地獄のディズニーランドのごとく
…東進の講師陣、楽しそうな感じもするけど、実際修羅場ですよね…!でも言い方がユーモラスで、揶揄する様な、現実感のない様な感じを与えます。
宇宙服のなかにまぎれる蚤などを思いて春の寝返りをうつ
…宇宙!ロマン!という思いを一発でちゃぶ台返しするような、蚤…!でも、そんなのもどうでも良いや。みたいな春の昼寝(?)
深刻だったり、深い意味のある言葉も詠み込まれているんですが、どれも一歩引いているというか。おもろ!と、読んでいくと、シュールさの裏で、心の空洞が大きくなっていく様な感じがします。さらに、叙情的だったりするんですよね。
こういうフィクションに片足を入れた世界にリアルな感触があるんじゃないか。というのも、世代的にわからなくなかったりして。
でも、圧倒的なベテランの方なので、一首だけ読むと、本当に綺麗だなぁ…という歌もたくさんあります。
何時まで放課後だろう 春の夜の水田に揺れるジャスコの灯り
網駕籠に野菜盛られて居酒屋は邪馬台国の宴のごとし
しゃらりんと虫取り網で掬いたし古井戸に棲む青き鬼火を
どろどろと木造校舎の背にのぼる黒入道と目が合えば、冬
…ジャスコのローカル感と青春感、たまらんですね…!三、四首目も、フィクションや幻視的なんですが…子どもの頃って、異界と繋がっていた感じがします。
砂漠で見る幻のごとローソンの青き看板灯りていたり
彦根城のプラモデルだけ残されて春の視聴覚室は暮れゆく
青春まで揚げていたのか あの夏の「つぼ八」厨房怒鳴られながら
すごく叙情的だったりファンキーだったり、ちょっと頭の中が忙しい。けれど、キチッと型にはまった世の中より、ちょっと混沌としてる世界の方が、実感が湧いたり…。入り込むと、中々でてこられない歌集です。