書籍紹介ー瀬戸際レモンー 蒼井 杏 さん

 

新鋭短歌シリーズからも、ご紹介!蒼井杏さんの、「瀬戸際レモン」です。イラスト、かわいいですよね。

タイトルから、先に瀬戸内レモンを思い出してしまうのは私だけでしょうか…クラシックというよりは、カジュアル、クスッとする感じを受けましたが、勿論中身とも、深く繋がっていました。鼻歌を歌っているような、軽快さがあるんですよね。

 

アークトゥルス、スピカ、デネボラ、星の名をポケットに入れて非常階段

 

…ポケットにメモなのか、本なのか。非常階段からなら、空にいけそうな感じがします。

 

パプリカの場所だけマルシェ 洋梨のような女に生まれたかったな

キッチンに丸椅子ひとつ持ち込んでわたしの春の司令塔とする

マヨネーズのふしゅーという溜息を星の口から聞いてしまった

めすばとが歩いて逃げるおすばとがふくらんで追う ねむたいベンチ

…鼻歌、とも言いましたが、妄想がちな感じも好きです。邪念のある妄想じゃなくて、家でぼーっとしてる時にふと出てくる様な肩肘の張らない、でも生々しい。なんか、友達とソファに並んで座って、独り言を聞いているような、変な安心感があります。(伝わるか?笑)

 

空壜が笛になるまでくちびるをすぼめるこれはさびしいときのド

わたくしを全消去する はい/いいえ 夢の中までカーソルまみれ

 

…もちろん、底抜けに明るいばかりではなくて、陰や悲しみのある歌もあります。けれどやっぱり、どこかユーモアを織り込んでいます。空瓶を吹いたり。カーソルまみれ。って、ちょっと楽しそうだなー、なんて。

 

青空を押して回転ドアを出る 見るものすべてに檸檬の付箋を

…など、ポジティブな姿勢はおそらく意識的で、歌う事で世界を明るく捉えようとしてるんじゃないか。なんて、檸檬の付箋から感じました。

陰の中にもある言葉遊びや、リズム感も楽しかったです。

すみませんよわいわたしをはなしがいしているわたし こてん ぱん の きゅう

でもきっとなにもしないのがいいのでしょう くつひもほどくどんどんほどく

ぶなしめじぽろっとほぐれてだれもだれもわたしがわたしでごめんなさいって

内臓をかきまわすようにボールペンのためしがきするわた わた わたし

 

…悲しい事を歌っているのに、ひらがなやリフレイン、楽しいリズムが遊びに誘って来ます。嫌な事があるなら、鼻歌でも歌って散歩したらいいのさ!ぐらいに受取りました。親しい人からの手紙みたいな、すごく距離の近い、口語も特長的に感じます。

 

あ、雨が、そろばんはじく音で振る。ねがいましては―ねがうよ、君の

そうでした。秘すれば花で物干しに音のないシャツきちんとならべて

七時まで白夜なきもちでカーテンの波打際で待っていますね

 

めっちゃきゅんきゅんしますね…!具体的な出来事は、ほとんど隠されているので、その距離感とか、親しさ、気持ちの瀬戸際が鮮明に感じられます。

 

いちまいのきおくのたどりつくところ瀬戸際レモン明るんでゆく

 

記憶、経験の蓄積した気持ちの淵が、自ずと明るんでくる様な…ポジティブになる、歌集です。

是非お手にとって、ご覧くださいー!

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